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たいらくなていたらく

頽落(たいらく)とは - 頽廃してしまった人間存在。堕落と言い換えてもよいだろう。ハイデガーの言葉。

砂糖のように甘い言葉と意志と偶然の世界

前回、汽車に乗れない博士の話を書いたけど、今朝はバスに乗れなかった。私が。チャージ金額が足りてなくて、ドヤ顔で出したのは1万円札で、バスで1万円札は使えなかった。後ろのおばあさん、私の腕越しにシルバーパスを見せてさっさと座りにいった。最高にエモい状況である。

そのまま駅まで歩き(徒歩でトホホ)、ぼんやり、電車のドアにもたれて揺られつつ、遅延の贈与のあの詩人だれだったかな、とか考えたのも束の間で、着くまで将棋の佐藤紳哉七段のキャッチフレーズ《砂糖のように甘い言葉で深夜に君を寝かさない》*1を思い出し笑いして過ごした。さっきみたいなこと、よくある、よくある。あっては困るんだけどよくある。

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悲劇的な運命よりも、こうした運命と呼ぶには大雑把な日々のポカ。誰といえば自分に責任があるんだけど、何かしらの巡り合わせなんじゃないかとも思う。どうにもこうにも、人生には偶然が多いからな。当たり前だと思ってる自分の眼の色や母国語や、慣れてしまった半端な身長やへんな両親。どれも選んだ覚えはない。まて、身長は偶然でいいけど、両親はなんだか運命ぽいかな。どのみち頼んでないけど。そんな適当な考えとは関係なく、いつからか勝手に決まってたり、突然やって来たりしてることにすら気づかずに受け入れてることがきっとたくさんある。もちろんあんまり気に入ってないって気付いてるけど、諦めて受け入れておくしかないものもいくつかある。

そんな混沌とした人生でありながら、佐藤紳哉七段は特に自分が選んだわけでもないけど一生背負って行く名前を、自分の意志と力でエッチなフレーズに変えたんだからすごい。真面目な場面でもそう名乗ってる。佐藤先生の名付け親はどんな気持ちかわからないけど、私だったら頼もしく思うだろう。あのハゲ頭だってそうだ。デビュー当初はアイドルキャラだったらしいのに、今や結構な若ハゲだ。遺伝でハゲる、ということに深い意味はない。とてつもなく業が深いとか、末代まで呪われたとか、そういう運命めいたものは多分ない。ただそうなってしまう。なんとなくハゲたくない世の中で。そこから、勝負前にサッとギャル男みたいなヅラを外す、というパフォーマンスを生み出したんだから、やっぱり佐藤紳哉七段は立派だ。たまたま与えられてしまったものを素敵に変えて、どんな偶然も運命も乗り越えて幸せになっていける感じがする。その上、バスに乗れなかった人まで楽しませてくれるんだから。サウイフモノニワタシハナリタイ。

けど、そんな屈強な棋士だってときには負けたりするから、いつどんなときもバスに乗れる人というのも幻想なのだ。そう。きっとあのおばあさんだってそれがわかってたから、なんのためらいもなく私を抜いていったのだ。