たいらくなていたらく

頽落(たいらく)とは - 頽廃してしまった人間存在。堕落と言い換えてもよいだろう。ハイデガーの言葉。

ジーン・セバーグ碁聖とゲルハルトのリヒター

年初めの発表で、世界ランク棋士に全勝してた謎のネット碁プレイヤー通称Masterの正体が明かされた。やっぱりGoogle傘下のAI、AlphaGoの最新版。
わしのわかる範囲で簡単に説明するね。とりあえずこのAlphaGoのすごいとこは、限りなく人間に近くてしかも最強なところ。つまり経験から碁を学び、トップ棋士たちに勝った。むかし90年代に話題になったコンピュータチェスDeepBlueは、2億通りの手筋を片っ端から当てはめ勝率の高い手を選択するという仕組みだったらしい。こっちはいかにもコンピュータっぽい勝ち方だけど、今回のは違う。というのも、なんと碁の打ち方には208 168 199 381 979 984 699 478 633 344 862 770 286 522 453 884 530 548 425 639 456 820 927 419 612 738 015 378 525 648 451 698 519 643 907 259 916 015 628 128 546 089 888 314 427 129 715 319 317 557 736 620 397 247 064 840 935通りもあって*1、そもそも現代の技術では手筋を完全に網羅できない。そのため囲碁は、人間のプロと渡り合うのが最も難しいゲームとされていた。もはやコンピュータにとって最難関課題だったから、医療現場などでの応用が期待されるAIの開発研究の一環として囲碁が採用され、AlphaGoが生まれた。

じゃあ、そもそも、そんなに手筋の複雑なゲームを人間はどうやってプレイしてるのか。答えはなんと、カンである。碁打ちの世界は直感を重視し*2、理論とともに研ぎ澄まされたカンで戦う。かなりロジカルな作りになってるチェスや将棋と違って、囲碁自体が感覚的で美的な遊びなのである。そこでAlphaGoは、ロジックの外から攻めてくる碁石に応戦するため、人間の脳そっくりのニューラルネットワークというモデルを利用したDeep Learning*3囲碁を勉強。歴史上の棋譜を眺めて、自分相手に何局も打ち、失敗から学習し、今も独学で囲碁を学んでる。すげえ。そしてついに、ネット碁のブラインドテストで、現代のトップ棋士たち相手に勝つまでになった。
細かいことはわかんないけど、とにかくAlphaGoは人間のように棋譜を検討して打ち方を試し、勝手に編み出してるから開発者にもわからない基準に従って最善の一手を打ち、こないだの年末、早くも世界最強棋士になった。かっこいいかよ。このテクノロジーの快挙に対して囲碁界では身投げが増えてる、ということはなくて、わりとみんなキラキラしてAlphaGoの棋風に学んでるらしい。

人類とAIは、共に、もうじき囲碁のより深い神秘を解き明かすだろう

古力九段*4

泣ける。柯潔九段は入院したけど。

こうして、囲碁のコンピュータv.s.人間は終わったのでした。YouTubeで電聖戦とか観てたの、つい最近なのになあ。これからは、AIと神の一手を極めてくよ。

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他人の頭の中を覗けないように、もうAIが何を考えてるのかも謎になってる。ここはいつだってマトリックスの世界かもよ。これが現実だって疑わなかったとしても、AlphaGoの冴え渡った手筋に震えた人はたくさんいるし、人間の作曲家とコンピュータの作った音楽の区別はもうとっくにつかない。AIに心がなくとも、人の心は動かしてる。しかも、もうそれだけじゃなくて、AlphaGoには棋風がある。ここに打たれたらこう、次はこう打つことが多い、という手筋の偏りが見つかってる。一手一手がどう勝ちに繋がるのか、どっちが勝ってるのか、かなりわかりづらい囲碁で。その上、勝率では測りきれないから、AlphaGoの出す次の一手の判断基準は不明。もしかしたら、AIも直感で判断してるのかも。好みがあるのかもしれないし、形の美しさを意識してるのかもしれない。わからない。

いつか見た攻殻機動隊のある話*6で、ジーン・セバーグをモデルにした一体の量産型アンドロイドが出てきた。持ち主は映画マニアのちょっとあれな青年で、来る日も来る日もアンドロイドとセバーグ主演の『勝手にしやがれ*7のシーンを再現して過ごしていた。

ー あなた 魂の存在を信じる?

ー 優しさだけを信じるよ

お人形ごっこ。彼女が覚えてるのは映画のセリフだけ。話の最後でも、元になった映画と同じように青年と警察に囲まれる。ただそこで、満足に走ることすらできない旧式ロボットのはずの彼女が、優しさで青年をかばい、セリフにない自分の言葉を発する。

SFアニメとして有名な攻殻機動隊の中でも、ただのアンドロイドに魂は宿らないと思われてたけど。プロに勝てるのは10年後と言われてた囲碁プログラムが世界最強になったから、何が起こってるかわからないよ。

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調べてたらジーン・セバーグのウィキに

生前、来日もしており、和服姿で碁をうっている写真が現存する(雑誌「平凡」より)[要出典]

て書いてあるんだけど、本当かな。見たいなあ。

☆☆☆

AIは心を持つ。持ってるかも。だいたい、METAFIVE*8なんてAIだと思う。AIはとうとう歌を歌った、と思ったのです。どうして私がそんな奇異なことを思ったかというと

砂混じりのメロディ 目の前の カーレディオ
ピカピカのアンテナで 受け止めるよ ノイズ纏った 君

ピンのボケたチャイナ ゲルハルトのリヒター
One nation under a sun
届けられる テレパシックな 君*9

これ、AIが考えててもいいじゃん。この歌詞は、ロボット化した現代人というより、心を求めるロボットの姿だ。ブリキの木こりのように。

youtu.be

パリで聞いたセルジュ ポンピドゥーのダミアン
One nation under a moon
想い出すよ 若かりしの 君

「ポンピドゥー(センター所蔵)のダミアン(ハーストの作品)」に対する「ゲルハルトのリヒター(ただのゲルハルト・リヒター)」のギャグ要員ぽさが気になるけど、これはAIが身の上を歌った曲ではないか。心を求めるロボットがAIじゃなくて今の私たちのことだったとしても、もう人間とAIは、いままでになくわかり合っている。