たいらくなていたらく

頽落(たいらく)とは - 頽廃してしまった人間存在。堕落と言い換えてもよいだろう。ハイデガーの言葉。

詐欺師とパラダイスと愛について

読み返してみたらさいあんどこーだった。 パラキス。

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詐欺師にしかなれなくてもみんなをパラダイスへ連れてきたい人生だった。 

Paradise Kissのあらすじ 

早坂紫は、進学校に通う優等生。学校と塾と家を往復する人生に疑問を感じながらも日々を送っていた。 
「ねえ! ちょっと!!」そんなある日、街で永瀬嵐に声をかけられる。彼は矢沢芸術学院の生徒で、学園祭のショーモデルを探していたのだ。そして出会うデザイナーの卵達。小泉譲二(ジョージ)、櫻田実和子、山本大助(イザベラ)。全く異なる世界の彼らに対し偏見を抱いていた紫だったが、一緒に行動するうちに、彼らの真剣に人生に向き合う思いやひたむきに夢を目指す姿勢に惹かれていく。*1 

羊と荒れ地の国で補習校の先輩に借りたParadise Kiss。前の投稿で若干NANAをディスったけど、パラキスは思い入れがある。わたしの原宿世界のすべてと言ってもいい。帰国して速攻、原宿の裏通りや日暮里の繊維街に通いつめた。(すぐ満足して中野のまんだらけ大予言に夢中になった。) 
なんか映画もあったらしいけど 

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最初はただのカッコつけ漫画だったけど、だんだん、地獄の炎に投げ込まれるべき者と思ってたジョージの苦悩や、好きな人のヒーローにしかなれない香の寂しさ、大人っぽくてスカした感じだった高校生たちが、実は必死に生きてたことがわかってきて愛おしくなってくる。 
BOOK OFFで立ち読みしてね。 

☆☆☆ 

しかし本筋は置いといて、パラキスといえばジョージとイザベラの関係である。 
ジョージは髪が青くて眼も(カラコンで)青くて才能あふれる服飾デザイナーの卵だけど、理想主義者にして完璧主義者で、マザコンでサディストでナルシストで、身近な人に対する責任を一切背負いたがらないので、もちろん「永遠の愛なんて死んでも誓えない性分」。ヒロインの紫は大変だ。 
イザベラはパタンナー(デザイン画を型紙に起こす職)志望のジョージの幼馴染で、本名は山本大助だけど、いつしか麗しい淑女に育った。小学生の頃、心は女の子であることを初めて相談したジョージにお手製のドレス一式をプレゼントされ、憧れのスカートを履いたその日からイザベラはイザベラとして生きていくことを決意。また、かわいく変身したイザベラを見て自分の才能を確信したジョージは服作りに目覚める。美しい。 
ここからネタバレすると、いろいろあって最終話でジョージは生き延びるため夢以外のすべてに別れを告げ今どき海路でパリに旅立つわけだけど、船上にはこっそり乗り込んだイザベラの姿があった。ラストシーンで水平線を前にジョージに告げる 

あなたはレディースのデザイナーなのに女心がわかってなさすぎるわ 
すべてを捨てて愛に生きるのも女の幸せなのよ*2

かっけえ。 
ひねくれ者のジョージは、母親のキャリアと引き換えに自分が生まれたという思い込みから全編通して「主体性のない女は嫌いだ」みたいなことを言い続けるわけだけど 、その結果ヒロインの紫は成長し次のステップに挑むため東京に残るし、憧れの女である香はそもそも先に修行のためロンドンへ旅立ってしまった。みんな、自力で自分のパラダイスへ向かう過程でしばらく惹かれあったのち別れるという物語である。 
色んな人がジョージの問題だらけの生き様に触発されるわけだけど、唯一「あなたのドレスのパターンを引く」ことが心からの望みであるイザベラだけが、ジョージのそばでパラダイスを目指すことができる 。泣ける。なぜなら、きっと真に寄り添うとはその人の隣で勝手に自己実現していくことだからである。つまりイザベラは、黙って就職を蹴って船に乗り込んだけど、ジョージへの愛のために自分の夢を諦めたのではなく、むしろどんな形でもジョージと一緒に服を作っていくことこそがイザベラの夢そのものだったのである。そのために職と学友とたったひとりの家族だった執事と手塩にかけた庭の薔薇(舞台は日本です)の元を離れてジョージを追う。 

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不器用で寂しがりやで世間とわかりあえないジョージが夢を実現するために必要なのは、彼の言う「少しの才能と溢れる情熱、それに伴う行動力」と、彼の隣で別の夢を叶える人。それは、自分の夢の中にジョージの夢を見出し続けるイザベラだけ。しかも気づいてすぐに後を追えるのがイザベラの愛。まさに少しの才能と溢れる情熱、それに伴う行動力。泣ける。イザベラは出番が少ないからよくわかんないけど、きっとGod knowsみたいな心理的局面があったに違いない。 
とはいえ、それぞれの生のためにきちんと別れを選ぶことも悪くないと思う。例の船上のシーンでジョージは海に向かって、あいつは「ミューズの存在がどれ程大きいか分かってないんだ」とか言って、紫がただ紫として生きることで自分にどれほどのものを与えたかを懐かしむ。これも泣ける。 

☆☆☆ 

ちなみにジョージはバイだから、これはイザベラ側の悲恋を描いた話ではない。同性ゆえに恋愛関係になれる可能性がないから最高の友達でいるみたいなのとはちょっと違う。あと途中までいわゆるフィクションのオカマにありがちなみんなのお母さんポジションを担っているけど、これも例の幼少期の変身エピソードとともに崩れ、イザベラも決して一方的に包み込み与える存在ではいことが明かされる。よって、ジョージとイザベラはすでに結ばれてるし、いつも最高に愛し合ってる。どんなふうにかは、ちょっとむずかしいけど、考えるな感じろ。 

俺は科学者を目指してる訳じゃないからね
ひと時の夢を見せる詐欺師でいいんだ
芸術の世界に不可能なことは何一つないさ*3

わたしは、形あるものを通して無限の夢をみさせてくれるあなたのイザベラでありたい。目的を叶えるための手段は世の中にたくさんあるけど、他の誰でもないあなたとでなければそれはわたしの夢じゃない。いつでも世界という観客を、ただの他人を少しでもパラダイスへ近づかせようとなんかいろいろがんばってる友だちとも恋人とも家族ともつかない、しいていえば幼馴染のような人たちと、いつまでも一緒に夢を叶えていたい。わたしはあなたが死ぬほど好きだし、けれども死にたくない。だから、別にお前のためじゃないから。 
いつもこっちになんて目もくれずに、宇宙や短歌や仏教ウツボカズラや社会契約や飲酒や12進法のことばかり考えて、その中にたまにわたしを発見してくれる人。ただ半年にいっぺん会って、深夜まで飲むような幼馴染たちといつまでも、永遠に生きていたい。 そうしたらわたしたちはいつか詐欺師じゃなくなる。きっと。

☆☆☆ 

ところでわたしのジョージたちは漫画と違ってむしろ現実について教えてくれることが多い。もしかして、その知性ゆえわたしの日常に 

また見つかった。何が?永遠が 
海とつがった太陽が *4

太陽ガッ!(デスボイス)とか 

 哀れなる哉、イカルスが幾人も来ては落っこちる*5

ワロタwwwwwwみたいな心象スケツチが挿入されており普段あんまり前見てないことばれてるんじゃないか。隠してるつもりなんだけど千の感情が波になっててそこでサーフィンしててたまに転んで数日溺れたしてること見抜いているのでは。恥と不安しかない。 君の側で眠らせて。

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とにかく、わたしはドイツにもフランスにもキヨウトにもついていかないかもしれないけど、手紙があるから大丈夫。

*1:Paradise Kiss - Wikipedia

*2:Paradise Kiss」5巻、矢沢あい祥伝社、2003年

*3:Paradise Kiss」4巻、矢沢あい祥伝社、2002年

*4:こんな使い方して申し訳ない「地獄の季節」ランボー小林秀雄訳、岩波文庫、何年かは知らない

*5:Kの昇天梶井基次郎に出てくることだけで有名なジュール・ラフォルグの詩の一説